一年ぶり、3回目の登場となった茂七の事件簿3、お楽しみいただけましたでしょうか。
茂七の暮らしている世界は、みなさんも御存知の江戸時代ですが、この時代にはもちろん電気がなく、太陽に合わせた生活をしていました。
そして、日の出を「明け六つ(卯の刻)」、日の入りを「暮れ六つ(酉の刻)」として、昼夜それぞれ六等分したものを「一刻(約2時間)」とした「不定時法」という仕組みを取っていました。
ですから、昼と夜、日の長い夏と日暮れの早い冬では、一刻の長さがまるで違っていたのです。
城やお寺、鐘楼などから聞こえる鐘の音で刻を知りながら、江戸の人々はおおらかに生活をしていたのでしょう。
茂七が住んでいたのは回向院の裏、この近辺を受け持っていたのは、「本所時の鐘」と呼ばれていた鐘撞堂ですが、今は記念碑だけが往時を偲ばせています。
10分や15分くらいは「誤差の範囲」だった江戸時代に比べて、今では分単位、秒単位で生活してるひとたちもいるとか。
でも茂七の事件簿を見るときくらいは、のんびりと楽しんでくださいね。
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第一話:片葉の芦
「本所七不思議のひとつに「片葉の芦」というのがあります。
両国橋の北にある小さな堀留には、なぜか片側にしか葉が生えないという不思議な芦ばかりが生えているというのです。
ここにかかる橋で、殺しがありました。仏になったのは、最近人気の握りずし屋「近江屋」の主人・藤兵衛という男、宵越しの米は使わないとばかりに、余った寿司飯を大川に捨ててしまうというパフォーマンスで、良くも悪くも江戸っ子の評判になっていたのです。
一人娘のお美津は、そんな父親の強引な商いに反感を持っていたらしく、世間では、下手人はお美津ではないか?とも噂されていました。
そんなとき、近江屋の葬儀に顔を出した茂七は、遠くから隠れるように手を合わせている娘を見かけます。また、塀の上から、近江屋の娘・お美津の様子をうかがっている若い男の姿も...。
第二話:敵持ち
「料理人の加助は、おびえていました。
身に覚えがないのに仕事先のイザコザに巻き込まれ、帰り道で待ち伏せまでされる始末です。
困りきった加助夫妻は、茂七に助けを求めますが、茂七も多忙で、四六時中付き合うわけにもいきません。
しかし、同じ長屋に住む浪人の小坂井が、用心棒を引き受けてくれました。
小坂井と一緒に帰る道で、殺しの現場に出会ってしまいます。
濡れ衣を着せられそうになる加助ですが、茂七たちが調べてみると、目撃者も怪しい。
どうも、加助は、誰かにハメられようとしているようです。
何か裏にあるにちがいない。茂七は、犯人をおびき出すために一計を案じます。真犯人は捕まるのでしょうか?そして、何か訳ありの雰囲気がする浪人・小坂井の過去とは?
第三話:鬼は外
盛り場で勝蔵の手下が暴れているのを静めた茂七は、そこに身寄りの無い少女・お花を見つけて保護します。
お花には特技がありました。たいそう似顔絵がうまく、おかつさんやお京さんを描いた絵は、近所で評判になっていました。
そんなとき、本所にある小間物問屋・松井屋の女将と主人が相談に訪れます。 兄と名乗る男に店を乗っ取られそうだという物騒な相談です。
小間物屋の主人・喜一郎が急に亡くなり、店の後継ぎ候補に、幼い頃里子に出された双子の弟・寿八郎を呼び戻したのですが、どうも偽者くさいというのです。
調査を依頼された茂七は寿八郎に会いますが、疑わしい様子もなく、しかも現在の暮らしに満足しているので、松井屋の財産にも興味はないし戻る気はない。とはいえ、疑われたまま去るのは、気持ちがおさまらない。幼い頃仲の良かったお末という叔母が自分の潔白を証明できるのだが...と茂七にすがってきます。
お末を探す約束をした茂七ですが、そのお末の亭主、久一は、お末を隠そうとしています。何か隠し事があるようなのです。
そして、お花の描いた似顔絵が元で、意外な真実が明らかになっていきます。
第四話「迷い鳩」
江戸の片隅で、一膳飯屋を商っている姉妹がありました。 まだ幼さの残っている妹のお初は、店先を通った女の袖にしたたる血を見ます。
しかし、それは、お初以外の誰にも見えていなかったのです。
掏りの疑いをかけられたのですが、幸いにも通りがかった茂七の機転で、事なきを得ます。
程なく、同心の山村から、先ほどの女は蝋燭問屋・柏屋の女将で、柏屋では、女中が一人いなくなったという情報が入ってきました。
さらに、主人は病気で女中が長続きしないという、なにやら訳ありの店らしいのです。
そんなころ、先日大川で見つかった水死体の身元がわかりました。 圭太という桶職人で、真面目でやさしい性格が評判でした。長屋では鳩を飼って楽しんでいたということですから、悪い遊びに手を出したとも考えられません。
圭太の件も気になりますが、柏屋も気がかりです。
茂七は理由を作って、お初と共に柏屋を訪ねてみました。
その庭先で見たものは、圭太が飼っていたと思われる鳩、そしてお初は、また不思議な幻覚を見てしまいます。
第五話:ならず者
茂七は、地回り同士の喧嘩で人を刺した男を探っていました。名前は市太郎。
病気をしているらしいのですが、行方がつかめません。
そんなとき、お京の幼なじみ・お仲の娘、お春は通い奉公に出ました。お京に紹介してもらった、深川の東にある砂村新田のお屋敷です。
ある日、使いからの戻り道、奉公先の砂村新田近くの木陰まで来た時に、木陰から男が声をかけてきます。「おまえ、お春ちゃんかい?」。見知らぬ男に怯えるお春ですが、市太郎と名乗る男は懐かしそうに微笑みながら母親の消息を聞くと、「おっかさんを、大事にな...」と言い残し、人目を避けるように去っていったのです。
薄気味が悪かったのはもちろんですが、「ああいう風体は、ならず者に違いない」と言われたお春は、このことを母親に伝えると心配するだろうと心を痛めます。
思い悩んだお春が、そのことを茂七に相談したことから、手がかりがつかめました。
なんと、茂七が追っている市太郎は、母親のお仲とお京の幼なじみだったのです。
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