春の花見の季節は過ぎましたが梅雨にはまだ少し早い、新緑がまぶしい季節。十津川の元に一通の不可解な内容の手紙が届きました。
差出人は仙台市の田中啓子という女性から、先日亡くなった夫・田中信彦の葬儀に参列して欲しいというのですが、まるで覚えのない人物なのです。
どうせだから行ってみては?という亀井刑事たちの勧めに甘えて、休暇を取った十津川は仙台に向かったのでした。
仙台は、100万人を超える人口を有する東北地方で最大の都市ですが、広瀬川や青葉山などの豊かな自然に恵まれて、杜の都という愛称で皆に親しまれている宮城県の県庁所在地です。
東京から東北新幹線を使えば1時間30分ちょっとで到着するという気軽さも十津川を出かける気にさせたのかも知れません。
手紙の差出人・啓子は、亡夫・伸彦の経営していた温泉ホテルの女将でした。伸彦は、ながく闘病生活を送っていたのですが、先日マンションの屋上から転落して死亡したとのこと。警察では病気を苦にしての自殺だろうと言うのですが、啓子は納得していないようです。そして十津川に一冊の手帳が手渡されました。主人の遺言で『十津川警部に渡してくれ』と言われたそうなのです。
東京に戻る列車の中で十津川は手帳を開きました。田中伸彦は几帳面な性格らしく、毎日の出来事や面会人が細かく書かれています。そのなかでA.Kというイニシャルが十津川の興味を引きました。他の人たちはすべて実名なのですが、隠したい事情があったのでしょうか?
そのとき、後方の座席で女性が苦しみ始めました。咄嗟に介抱をする十津川ですがこのとき鞄の中から伸彦の手帳が盗まれてしまったことなど知るよしもありません。
しかし事件はここから始まっていったのです。
その日の夜、東京で高見明という男が殺されました。断末魔につぶやいた『あおば』という言葉と、所持していた紙片は、十津川の鞄から盗まれた伸彦の手帳から切り取られた一枚だったのです。
そして高見の住まいに同居していた江口ゆきは、先日新幹線で十津川に介抱された女性でした。
手帳のありかには口をつぐむ彼女でしたが、何者かに部屋を爆破され、危ういところで救助されてから十津川多地に協力的になり、手帳も戻ってきたのです。
しかし、この一連の出来事は田中伸彦の死が事故ではないことを示しています。十津川たち捜査一課は宮城県警と協力して事件の真相を究明するべく捜査を開始しました。
そして捜査線上に浮かび上がった何人かの人物。県会議員の川西邦夫。中島総合技建社長の中島圭介。伸彦の妻・啓子も何か隠しているようです。そしてA.Kのイニシャルに合う人物も……。
様々な人たちの思惑が青葉繁る東北の都市を舞台に広がっていきます。そして十津川の推理が導き出した真犯人とは?
ミステリーファンはもちろん鉄道ファンの満足のトラベルミステリー。数えて64回目になる十津川警部の活躍を今回も存分にお楽しみください。
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