Science
Songs of Life
(Science, vol. 300:49, 4 Apr. 2003)
"The Sperm's Lament," 'The Gene Waltz," and "The Seed-Sowing Mendel" are not likely to top the pop music charts. But as long as they can enliven high school biology, Tatsuo Motokawa, a biologist at the Tokyo Institute of Technology will have succeeded. The numbers are part of a three-CD-and-book compilation called "Singing Biology," containing 70 songs written and sung by Motokawa, with accompanying text.
Motokawa, 54, began his musical lectures 20 years ago at the University of the Ryukyus in Okinawa. 'They were afternoon classes, it's hot in Okinawa, I needed help keeping students' eyes open," says Motokawa, whose own research focuses on echinoderms: starfish, sea cucumbers, and sea urchins.
After moving to the Tokyo Institute of Technology in 1991, Motokawa stopped performing in the classroom-"I was told singing is just not done in university classes," he says. But he continued to popularize science, producing five books for the general pubiic, a couple of illustrated science books for children, and a CD of songs about biology Each song in his latest CD-and-text collection, released last December and intended to supplement standard high school textbooks, touches on a key concept. "The Sperm's Lament" gives a tour of mammalian reproductive organs from the viewpoint of a sperm who "swam and swam by swinging my flagellum, the long, long way up to the oviduct." (It rhymes in Japanese.) "The Gene Waltz," not surprisingly describes the romantic entanglement of two strands of reproducing DNA.
Although Motokawa's tunes may never go platinum, his collection has sold well enough for his publisher to order a similar volume for junior high students. Whoever thought biology notes could be this much fun?
産経新聞
歌って生物博士
高校レベル要点 演歌・ラップ70曲
東京工大・本川教授 CD付き本出版
(産経新聞、2003年、1月15日)
子供たちの理科離れが指摘される中、歌いながら高校の「生物」の基本を身に付けようという本が出版された。付録のCD三枚には計七十曲を収録。国際的な生物学者が執筆から作詞、作曲、歌唱まで行っており、学校教育の場などで反響を呼びそうだ。(山本雅人)
「歌う生物学・必修編」(TBSブリタニカ、三千八百円)で、東京工業大学生命理工学研究科の本川達雄教授(五四)が執筆した。
本川教授はナマコやウニ、ヒトデなど棘皮動物の研究を行っており、ナマコなど皮の硬さが変化する「キャッチ結合組織」の研究では世界的権威。高校の生物の教科書(啓林館)の編者でもある。
CDに収められた曲は音頭やラップ、演歌調などさまざまだ。本は歌詞や楽譜、曲ごとの学習内容の要点を分かりやすい読み物にした「ここがポイント」として構成。本川教授は「教育指導要領の学習項目に合わせる形で、覚えるべきキーワードを抜き出して歌詞を作った」と話す。
基礎はもちろん、授業の副教材や参考書としても使える本格的なものだ。実際、テスト版を作製しいくつかの高校の授業で使用してもらったところ、生徒からは「大学入試で出ないような部分まで覚えてしまった」と好評だった。
本川教授が生物学を歌にし始めたのは琉球大学の議師として沖縄に赴任した約二十年前。瀬底島という小さな島に学生数人と泊まり込みでナマコの研究をしていたが、気晴らしに歌でも歌おうとご当地ソングとして「瀬底音頭」を作った。自分の研究対象も歌にしてみると、生物の特徴を簡単に覚えられることに気付いた。その後、「授業に使える」として生物学を歌にするようになった。例えば、「体液とその恒常性」という学習項目については『肝腎演歌』として
「肝腎かなめの肝臓は/体の化学化学工場よ/グルコースをグリコーゲンに合成してたくわえる/血糖さがったそのときにゃ/それを分解放出し/保つ体液のエー/保ってる恒常性」と歌っている。
こうした歌での効用について、本川教授は「今の子供はテレビで育っており、空気と同じように音楽に親しんでいる」と分析。その上で、「教養として生物学をマスターするには一定の知識を覚える必要があり、どうせなら覚えやすい歌にすればよいと思った」と語る。
大学の講義でも歌を取り入れることに対し、一部の研究者などからは反発する声もある。しかし、本川教授は「賛美歌や仏教の和讃なども歌にすれば忘れない。音楽の授業でしか歌ってはいけないというのは強い自己規制に縛られている」と、現在の教育を批判する。本川教授は「DNAやクローンなど生物学用語がニュースに出てくる時代だけに一般の人にも教養書として活用してほしい」と話している。
読売
高校の生物 歌で覚えよう!
(読売新聞、2003年、1月31日、都民版)
高校の生物を歌って覚えよう。東工大大学院(目黒区大岡山二)の本川達雄教授(54)が、専門の生物学の用語を使って計七十曲の歌を作り、三十日、同大での講義で一部を自ら熱唱した。五年がかりで仕上げた歌は、語呂合わせを駆使したり、現代風にラップ音楽でアレンジしたりとユニークなものばかり。七十曲をまとめた本も出版されており、大学受験生たちの評判も上々だ。
ベストセラーとなった著書「ゾウの時間ネズミの時間」で知られる本川教授は、高校生物の教科書編集にも携わってきた。その中で、「覚えるべき生物用語はたくさんある。どうせ暗記しなければならないのなら、負担を軽くしてあげたい」と考え、作詞と作曲に取り組んできた。
特に力を注いだのが作詞で、語呂合わせのほか、だじゃれや七五調を多用するなど、すぐに頭に入るよう工夫したという。本川教授は同大の講義「基礎生物学A」でも、授業内容にちなんだ自作の歌を披露してきた。この日は同講義の最終回とあって、学生のほか一般聴講生も集めた特別講義とし、バンドの演奏つきで一時間半、七十曲中十六曲を歌った。
小学校から大学まで合唱部に所属していた本川教授の歌声は玄人はだし。「勇気りんりんアドレナリン/甲状腺からチロキシン」「肝腎かなめの肝臓は/グルコースをグリコーゲンに合成してたくわえる」といった愉快な歌詞に、講義室は爆笑の渦に包まれた。
また、ラップ音楽で作った歌では「口の中は何性?」との教授の問いかけに、"聴衆"が「中性!」と応じるなど、参加者全員で楽しむ一幕も。休みを利用して聴講した中央区の会杜員酒井明雄さん(33)は「とっつきにくい生物を楽しく学ばせる発想は素晴らしい」と感嘆していた。
一方、七十曲をまとめた「歌う生物学必修編」(TBSブリタニカ)は昨年十二月に出版。CD付きで、歌い手はもちろん本川教授だ。税別で三千八百円と高額だが、早くも増刷が決まるほど好調な売れ行きで、「この本があって助かった」との受験生の声が数多く寄せられているという。"歌う高校生物“について、本川教授は「大きな声で歌って体に染み込ませれば、自転車に乗るのと同じで二度と忘れない」と話している。
The Daily Yomiuri
Scientist’s songs help biology students
(BY Saori Kan Daily Yomiuri Staff Writer, The Daily Yomiuri, Mar.6, 2003)
Tatsuo Motokawa, a biology professor at the Tokyo Institute of Technology, has been singing songs he composed during his lectures to explain key issues of biology for more than 20 years.
The researcher, 54, penned the best-seller “Zo no Jikan, Nezumi no Jikan” (The Time of an Elephant and the Time of a Mouse)," which introduced the concept of physiological time as determined by the sizes of creatures, and recently published a biology study book with three CDs featuring 70 of his songs for high school students and those preparing for university entrance exams.
The book, “Utau Seibutsugaku" (Biology by Singing), also includes the lyrics to several amusing songs, including: “Tane O Maku Menderu (Seeding Mendel)" about Gregor Mendel, the 19th-century monk who discovered the principles of inheritance, "Idenshi Warutsu (Gene Waltz)" and "Koso Koso Waga Inochi-Rappu (Enzymes, My Life!-rap song)," which explains the function of enzymes.
Motokawa, who sang in choirs at primary, middle and high school, and at university, performs the songs during his lectures to help his students grasp the key issues and vocabulary of biology, while tackling the more complex issues in a conventional fashion. "Most students seem to hate rote learning, but I think memorizing information enriches them mentally or intellectually. I just wanted to help them enjoy learning facts by heart," said Motokawa, whose songs have been carried in the journals of international and domestic academic societies. He said, "In the field of biology, there are so many things to learn by heart, which highlights the diversity of life."
Motokawa, whose father was a medical researcher, was born in Sendai. He majored in biology at Tokyo University, as he "wanted to explore 'useless' fields for their own sake." The field of biology has come to the fore with the recent popularity of biotechnology, but at the time Motokawa entered university, it was considered less practical than engineering, legal studies and economics. After he became a university lecturer, he was shocked when a famous scholar told him: "You should devote yourself to your own studies. Don't worry about scientific education, it's a job for retirees."
However, the nation is now facing an educational crisis and academic standards are declining. "In the time of gene therapy and production of genetically modified plants, biology isn't just literature any more. My book is also an attempt to familiarize or-dinary people with scientific issues," Motokawa said.
読売(ジュニアプレス)
生物学の言葉歌で覚えよう
CD付きの本出版
(小5・藤川奈央美、高2、・酒井由夏記者、読売新聞、2003年、3月24日)
グリコーゲン、アドレナリン、DNA・…。「生物」の教科書に登場するたくさんの言葉を歌いながら覚えようというユニークな本『歌う生物学・必修編』(TBSブリタニカ)が出版されました。著者の東京工業大学教授、本川達雄さん(54)が都内の書店でトークショーを行い、歌を披露しました。
本川さんは、試験のために覚えてすぐ忘れてしまうような勉強方法はよくないと考えています。「生物は一つ一つが違う名前を持っている。それらをきちんと理解して覚えれば、世界が豊かになります」
そこで本川さんは、聞いた人の心に知識のイメージが残るようにと、生物学の基礎を盛り込んだ歌を作ることを思いつきました。「体と記憶はつながっています」。覚えるためには、声を出して体を動かすのが一番。つまり、歌うことが最も効果的なのだそうです。
『歌う生物学』は、本川さんが三年かけて作詞・作曲した七十曲の楽譜と解説で構成し、自身が歌っだCDも三枚付いています。バラードやアニメソング風の曲や、ラツプや演歌調のアレンジなども。細胞やホルモンの働きを、思わず笑ってしまうゴロ合わせくしやだじゃれを駆使して詞にまとめました。たとえぱ「道管は水道管」という曲は「木部の道管水道管/すいすい水が通ってく/水の通りのよいように中昧の抜けた空の管」という歌詞が、水が流れるような滑らかな普楽に乗せられています。
トークショーでは、「勇気りんりんアドレナリン」などの曲を、思い入れたっぷりに披露し、会場は大いに盛り上りました。最後に本川さんは「私たちの生活は科学によって豊かになりました。でも、それは地球にとっては必ずしも明るい未来ではないかもしれません。科学をもう一度ちゃんと学んで、使い方を考え直す時期に来ていると思います」と語りました。
この本は、何杜もの出版杜・CD制作会杜に断られながら、やっと出版にこぎ着けたそうです。困難な夢を現実に変える情熱を持ち、人生を楽しんでいる本川さん。ぜひ一度、授業を受けてみたいと思いました。
12歳からの読書案内
高校の「生物」を歌って覚える!
(金原瑞人、すばる舎, 2005年)
最近、会う人ごとに勧めているのが、この『歌う生物学・必修編』。発想がすごい。高校の生物の教科書の内容を、全70曲の歌で覚えてしまおうというのだ。
「誤解しやすい五界説/巨大コンブもアメーバも/おんなじ仲間に入ってる/ケイ藻 紅藻 ゾウリムシ/植物の祖先緑藻も/みんな原生生物界」(「五界説」の二番の歌詞」
こういった歌に、わかりやすい解説がついている。たとえば、「五界説」に関してはこんな感じだ。昔の生物学は「動物・植物」の二界説だったのが、顕微鏡が発明されて単細胞の生物が発見され、これを足して三界説になるが、電子顕微鏡ができて細胞の細かい構造の違いがわかるようになり、やがて五界説が提案されるようになる(モネラ界、原生生物界、菌界、植物界、動物界)。そしてこの分類によると、普通人の感覚ではちょっと考えられないかもしれないが、巨大コンブ(ジャイアント・ケルプ)も単細胞の真核生物もすべて原生生物界に入る。というふうなことがユーモアたっぷりに説明されている。
かしこの解説のすばらしいところは、単なる教科書的な知識の説明に終わらず、もっと大きなところにまで目を向けていることだろう。たとえば次のような指摘。
「五界説は『説』。こう考えようではないか、という提案なのである……学問の中の正解が、日常生活の正解と同じわけではない……そもそも自然の中に区切りなど存在しない。区切りをもちこむのは、われわれの理性である。自然を区切って整理して、理解しやすくするのが学問」
作者は、『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)という意表をつく生物学の啓蒙書で、世間をあっと言わせた本川達雄。東京工業大学教授の本川先生みずから、歌をうたっていらっしゃる。最後になったが、この本、楽譜、解説のほか、CD3枚付きである。
ミュージックマガジン
シンガー&ソングライター&バイオロジカル・ティーチャーの新作
(安田謙一、Music Magazine, 2003年4月号)
本書は、東京工業大学大学院生命理工学研究所教授、本川達雄(1948〜)による生物学のテキスト・ブックである。と、書けば、さささーっと、引き潮のように読者の興味が"ひいて"いく音も聞こえそうだ。が、わざわざこの本をここで取り上げるのは、ほかでもない。本川教授は、さまざまな生物学にまつわる事象を、作詞・作曲そして自身の歌によって教える、歌う生物学教授&シンガー&ソングライター&バイオロジカル・ティーチャーだ。
これまでにも『ゾウの時間・ネズミの時間』一日本コロムビア一で聴くことが出来た本川節だが、本書の付録"CD3枚で、なんと全70曲も堪能することができる。(あえて)副読本には全曲の歌詞、楽譜も付いている。曲の解題が、そのまま生物学の教科書になっている、という寸法だ。川西杏にも通じる、ある種の天使のような無垢な歌声で「食物連鎖のうた」「脊椎動物進化節」「酸素こそわがいのちラップ」などと題されたナンバーを聴かせてくれる。編曲は簡素だが、曲調は、マーチありラテンありムード歌謡あり…と決して飽きさせることがない。「女っていうやつは底意地がなんでこんなに悪いんだ。最後は子宮に来るくせに、こんなに遠くに呼びつける」(「精子のぼやきのうた」)といった味のある笑いがたまらない。
で、この本、というか3枚組CDを、書店でタッチ&バイし、家でも楽しく聴いてはいるのだが、実際にこのCDを生物学の基本をマスターすべく、与えられた高校生、特に出来の悪い学生にとっては、まあ、なんというか、暗黒の響きがあるのでは、なんて考えたりした。表現への過剰なまでの自信も含めて、いわゆるひとつのアウトサイダーニミュージック。
田口ランディ
歌おう! 世界を高らかに
(月刊ダイバー、2003年5月号)
昨日、待ちに待ったCDブックをついにゲットした。『歌う生物学(必修編)』著・本川達雄(TBSブリタニカ)。
実は私はここ十年来、歌う生物学者である本川達雄先生の大ファンなのである。前号で私がナマコ好きなことをこのコラムに書いたけれども、私がナマコに興味をもったのも本川先生のご著書を読んでからだった。
本川達雄先生は東京工業大学の大学院生命理工学研究科というところの教授である。専門は生物学で、特に棘皮(きょくひ)動物、つまりナマコ、ウニ、ヒトデ、ウミユリなどの硬さの変わる結合組織の研究をなさっている。他にも「生物のサイズ」の研究をなさっていて『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)は大ベストセラーになった。琉球大学の助教授時代には、沖縄のサンゴ礁でフィールドワークを行い『サンゴしょうの海』(福音館)という共著もある。本川先生の良さは、難しい生物学を素人で文系の私にもわかりやすく、しかも楽しく解説してくれるところである。
ダイビングを始めたころ、初めて見た海の生物に魅了された。
とりわけ私を熱狂させたのは沖縄の慶良間諸島のサンゴ礁だった。海の中にはこんな美しい世界があったのか。サンゴ礁に棲息している不思議な形の生物たち。ああすごい。どういう生態系なのか、こいつらはどんな一生を送るのだろう。もっと海の生物のことを知りたい、そう思っていたがなかなか一面自い本がない。そんなときに出会ったのが本川先生の本だった。
そしてある時、ふとテレビのチャンネルを回したらNHK教育テレビに本川先生が出演していた。先生はごくごくフツーの少しおデコの出たおじさまだった。番組で生物の講義をしておられたのだが、講義の最後に先生はいきなり歌いだしたのである。
今でも忘れることができない。その歌は『棘皮動物音頭』というものであった。大学教授である本川先生が、実に大まじめにテレビ画面の中で自作の『棘皮動物音頭』を歌っている。歌には棘皮動物の生態が歌詞として盛り込まれていた。私はあまりの可笑しさに七転八倒した。そしてますます本川先生ファンになってしまったのだ。
以来、海洋生物オタクの道をまっしぐらに進んできた。海洋生物は奥が深い。知れば知るほど面白い。特にサンゴ礁の生物の生き様は生命の深遠を感じさせる。ハナダイやクマノミの性転一換(特にクマノミの場合は最初に雄として成長し、最も大きい個体が雌に性転換して二番目に大きい雄と結婚する。その他の雄はカッブルから攻撃されるので成長ホルモンが分泌されず未成熟の小さいままで一生を終えるのだ。なにやらせつないではないか)、ブダイの寝袋、サンゴの産卵……。なんという。生命の多様さだろうか。最初はただ観賞するだけだった海洋生物だが、その生態を知ると海に潜る楽しさは何倍にも膨れ上がった。
ここ数年、本川先生の著書が出版されず寂しく思っていたのだが、ついに出た。生物学の基礎がマスターできる70曲が詰まった『歌う生物学』。全曲、本川先生が作詞作曲そして歌っている。なんと笑えるマニアックなCD本だ。
「形は違っているけれど」という歌には、ゴカイとアサリはとても関係が深い……と歌われている。「伊豆大島遷移のうた」では伊豆大島の火山噴火による生態系や地質の変化を歌っている。「遺伝子ワルツ」は遺伝子と染色体によっていかに生命が連鎖していくかを歌っている。「動物は水のつまった袋」では、太古の海で有機物がいかに細胞に進化したかが歌われている。
体はその60%までが水である。水はたくさんのものを溶かしてくれる。だから海から生命は生まれてきた。そんな生命の神秘が童謡みたいにおちゃめに歌われていて、私はもう聞いていると身もだえしてしまうのだ。夏前に、一曲くらいはぜひ宴会用にマスターしようと思っている。
海洋と生物
歌う生物学 必修編
(大島範子、海洋と生物146、2003)
歌う生物学者,本川達雄先生がついに究極の本を出版された。高等学校の生物の教科書(啓林館発行)の執筆や『生物教育用語集』(日本動物学会・日本植物学会編)の編集に携わるなかで,高校の教科書のカバーする内容を再度勉強し直すことになり,どうせなら歌もつくってしまおうと,指導要領の項目全てを書き出して,各項目に1曲1曲,歌を対応させていかれた結果,指導要領の全範囲をカバーする高校生物の歌が70曲できあがったというわけである。
本川先生は琉球大学に着任されてから,生物学において本質的なことを学生達に末永く覚えていてもらうにはどのような教育が効果的かをいろいろと試行錯誤され,"ただ脳味噌で覚えるというだけでなく,声帯をふるわすという肉体の行為を通すことにより,記憶が永続する"という結論に到達された。先生が歌にこだわられるのは,"歌は体にしみついて,何年たっても思わず口をついて出てくる"との信念をもたれているからである。琉球大学では講義で歌うだけでなく,「歌う生物学」の公開講座も開催され,地元紙でも大きく取り上げられた。
東京工業大学の教授として東京にもどられてからは,講義で歌うことをしばらく遠慮されていた。その頃先生にお会いしたところ,「手弁当でいいから東邦大学で歌わせてよ」と言われたので,本当に安い弁当を準備するだけで,大教室の教壇で思う存分歌っていただいた。勿論,その前に講義もしていただいてのことである。無伴奏で何曲も歌ってお疲れにも拘わらず,著書(『ゾウの時間ネズミの時間』など)のサイン会まで開催のはこびとなった。それ以来,本川先生と東邦大学のお付合いは続き,数年前には理学部客員教授をお引き受けいただいた。物理学科でも講演を依頼したし,私の同僚の藤井良三先生(昨年逝去;東邦大学名誉教授)の退職記念講演会では「ナマコのはなし」をしていただいた。講演会後の懇親会では,魚の体色変化の研究が専門であった藤井先生のために特別につくったという「体色(退職)変化のうた」を披露された。
そういうわけで東邦大学には本川先生の隠れファンが多いのである。咋年の5月に本川先生から第4歌曲集「70曲;歌で覚える高校生物」を送っていただき,実験で疲れた時に研究室の学生らとしばしば楽しんでいたら(笑いがとまらないで困っている学生もいたが),いよいよそれがTBSブリタニカから出版されたらしいと新聞の広告で気がついた。早速に本の内容をみてみると,高校の生物の教科書に即して「生命の連続性」「環境と生物の反応」「生物現象と物質」「生物の分類と進化」「生物の集団」の5つのパートから成り,例えば「生命の連続性」のパートはさらに「細胞」「生殖と発生」「遺伝」の3項目から構成されている。「細胞」の項目には7曲,「生殖と発生」「遺伝」にはそれぞれ8曲,3曲が対応している。歌のタイトルはといえば「生めよふえよ地に満ちよ」「精子のぽやきのうた」(「生殖と発生」),「勇気りんりんアドレナリン」「チャンネル音頭」(「環境と動物の反応」),「消化唱歌」「タンパクのタンゴ」(「タンパク質と生物体の機能」)など,肩のこらない一愉快なものばかりである。歌詞も本川流の語呂合わせ,ダジャレありで大いに笑える。しかし,1曲1曲に「ここがポイント」と平易で,しかも要点をおさえた解説がついているので,これはしごく真面目な本なのだと,早速に受験生をもつお母さんに実物を見せたら,「面白そう。すぐに買いに行くわ。わたしも勉強しよう。」ということになった。生徒だけでなく主婦にも親しみやすい生物学の入門書でもある。
70曲の歌は3枚のCDにおさめられており,歌手は勿論本川先生白身であるが,驚いたことに伴奏がついていた。演奏しているのは「歌う生物学バンド」の伊藤さん(キーボード),金子さん(べ一ス),中井さん(ドラム)とのこと。4日間にわたり本川先生の歌に付合ったこの方々も,今頃はきっと生物学の面白さにとりつかれて本業に支障をきたしているに違いないと同情を禁じ得ない。(東邦大学教授 大島範子、海洋と生物、25巻の3,2003)
「CDゾウの時間ネズミの時間ー歌う生物学」評判記
産経新聞(1995年、5月24日)
講義中に自作の歌を披露する「歌う教授」として有名な本川達雄・東工大教授が日本コロシビアから初のCD「ゾウの時間ネズミの時間-歌う生物学-」(2800円)出した。収録されているのは自作の十八曲。内容は『♪ゾウは細胞も大きいの♪』といった具合に、生物学をわかりやすく歌ったものだ。自ら歌を吹き込んだ本川教授によると、「左脳と右脳の、両方がともに理解した時にはじめて、分かった! と言える。音楽入りの授業こそ最先端の授業じゃないのかなあ」とのこと。
報知新聞(1995年、5月31日)
大学教授が歌う音楽CDが売り出され、人気を集めている「ゾウの時間ネズミの時間〜歌う生物学(日本コロムビア、2800円)は、東京工業大学理学部教授、本川達雄さんの自作自演集。表題通り、生物学を楽しく分かりやすくうたいあげた、異色のアルバムだ。
「学問を心底分かったと感じるのは、論理とイメージが一致したとき。左脳(論魏)と右脳(イメージ)の、両方がともに理解したとき、初めて分かった! と言える。これが生物学を歌う理由」と、大学の講義用に作ってきたという。
しかし、大まじめの歌詞は、題材が生物学だけに、どこかヘン。♪あなたを一自見たときは/アドレナリンがパッと出て/ひとみギンギン手には汗(自律神経節)。例えばこの歌は、自律神経の仕組みを歌ったものだ。この調子で「生ものは円柱形」、「サンゴのタンゴ」といった生物学ソングが18曲。付属の解説も読めば、あなたもいつのまにやら生物学の権威になれる?
アエラ(1995、5月1―8)
「光合成なら引き受けた/リンと窒素をよろしくね」「分析機器にかこまれて/試験管振る白衣の私/身がひきしまる象牙の塔で/ワトソン、クリックの後を追うつもりだった」などと、愉快に生物学を歌ったCD「ゾウの時間ネズミの時間」(日本コロムビア)が発売された。歌うのは本川達雄東京工業大学理学部教授。
「学問がつまらないのは、つまらない教え方をしているから。講義をエンターテインメントにしよう」というのがポリシーの「歌う生物学者」の名唱集(?)だ。同様風あり、ニューミュージック風あり、ラップありのバラエティーに富んだ内容。意外な歌唱力で迫る。本川教授はベストセラーになった同名書の著者で、その音楽編という意味もある。「きょくひ動物音頭」「サンゴのタンゴ」「ナマケモノのうた」など、自作自演曲十八曲を収録している。四月からNHK教育テレビ「人間大学」にも出演して、すでに一部の曲を披露している。(簑島弘隆)