一本の樹から地球へ
地球の上のあらゆる樹と人間のために
渋谷区の住宅地に、樹齢約158年の「欅(けやき)」の木があります。 大人のこ抱え程もある幹から、スッと伸びた枝は、ふんわりと広がって、かたわらの洋館を包み込んで守ってきました。 その古い洋館が解体される事になりました。その歴史的価値から群馬県沼田市への移築が決まったのです。 その跡地にはマンションが建つ予定になっています。
一本の樹を切る―その背景には、土地の高騰による相続税の増加などのいたしかたない当事者の事情というものがある訳ですが、私たちの住む場所が日々大樹にとって生きにくい環境になりつつあることも確かなのです。 アスファルトは、この大量の葉が土に遭えることを拒み、本来は生命の豊かさの根源であるはずのものが単なるゴミとして扱われています。 現に、この樹も「葉が散って掃除が大変だから枝を伐ってくれ」と言われ続けていました。 そして、今度は樹そのものが、切り刻まれ、ゴミとしてどこかへ持ちさられようとしているのです。 夏の木陰、セミの声、秋の紅葉、春の芽吹き、鳥の声……樹がそこにあることの良さは、誰もが知っていること。 でも経済的価値とその変化のスピードの前には、情けないほど、力が無い…… 日々私達の視野から消えていく大樹のあとの空虚に、ただ呆然とし、嘆いているだけでは、何も変わりません。
この「欅」の樹の一件は、私たちにとって「しかたないね。」ですまさずに、ここでふんばれば、別の展開になるかもしれない、そんな距離で起こっ た出来事でした。 残り時間はわずかだけれど、間に合うかもしれない、そんなタイミングでした。
というより、「欅」の樹に取りつかれてしまったのだと言ったほうが正しいかもしれません。 それほどに魅力のある樹なのです。 多くの人に見て欲しい、感じて欲しい、この樹を通じて、共に何か考えることが出来るのではないか、それがこの樹にできる最低の儀式であるような気もします。
こんな経緯を経て、「欅」の持ち主のご好意により「欅」を譲り受け、一本の樹をめぐるプロジェクトがスタートしました。 この樹を残らず使ってみよう。 幹ばかりか、枝も、根も、葉も余すことなくすべてを。 一体どれだけのことがやれるのだろう。 プロもアマチュアも分野も限らずに、大人も子供も……出来るだけ多くの人がこの樹の命を分けあって。 その経過を記録して本をつくろう。 展示会やワークショップもしよう。 その中から単にこの樹というワクをこえ、樹と人間に関するメッセージを発することができるのではないかと考えています。
1989年9月 一本の樹プロジェクト
このような企画書からはじまったプロジェクトがかつてありました。
私たちはこの「一本の樹から地球へ」 の運動に感銘をうけ、
そして私たちのけやきからも、このように 何か ができないだろうかと考えました。
3年間に渡るの「一本の樹から地球へ」 プロジェクト中で多くの方が参加され、さまざまな作品が生まれました。
その中からいくつかをお借りして、こちらでご紹介させていただきました。
あなたがけやきから何かをつくるヒントになりますように。
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